著者: 神山 裕右
タイトル: カタコンベ

勝手に採点 ☆☆

本年度の江戸川乱歩賞を受賞した話題作。
人跡未踏の洞窟探索に向う調査隊を襲った岩盤崩落事故。

事故に巻き込まれた恩人の娘を助けるため、単身救助に向かった
ひとりの青年。彼には悔やみきれない悲劇的な過去が・・・。

洞窟が水没するまでのタイムリミットは僅か。
果たして彼らは生還できるのか!?

舞台が外界から隔絶された洞窟内という設定が秀逸。
息苦しいほどの緊迫感が漂う。

カタコンベ、ケイビング、ドリーネといった聞き慣れない用語や
白亜の地下空間、巨大な地下湖の存在も神秘的な雰囲気を
盛り上げる。

最後まで落ちないスピード感もなかなかのもの。迫り狂う地下水
に飲み込まれずに逃げ切るのか、思わず手に汗を握る。

一方、救出に絡む復讐劇は陳腐そのもの。
10年間洞窟内で死なない雑種犬や横領を恐喝される税理士など、
あまりに安易な設定に首を傾げる。

決定的な違和感は、犯人が遺体を放置したままでいたこと。

現場に戻って隠すなり焼くなり地下水に流すなりしておけば
良かったじゃないかと突っ込みたくなる。

10年間も何時発見されるか怯えて暮らすぐらいなら・・・。
全員殺してしまったら余計に疑われるだろう普通・・・。

恩人の使い方や娘の言動にも全くひねりがないし、冒頭のヤマイヌ騒
ぎは何だったの?歯形で分かるだろう、ただの犬かオオカミかぐらい。

そのため、全体的に重厚感や深みに欠け物足りない印象で、
尻窄み気味の後半に興ざめの感が拭えない。

スリリングな冒険小説に取って付けた殺し合いは似合わない。

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